2024年度
会員社アンケート調査
各調査から「取り巻く環境がより厳しくなっている」ことが明白に
ATP経営情報アンケートについて
ATP経営情報アンケートは、厳しさを増す製作会社の経営実態を明らかにするため、2012年度より実施しております。
これまではATP独自で調査・報告を行ってまいりましたが、今年度は統計的な分析を加え、調査結果の信頼性を一層高めるために、外部の有識者と研究会を発足し、調査を実施いたしました。
調査結果によると、売上高は前年と比較して横ばいであったものの、営業利益および経常利益は全体平均で10%以上減少しました。また、外部スタッフの活用や固定費の削減が進んでいる一方で、制作費の適正な価格転嫁が反映されていないケースも多く見られ、製作会社を取り巻く環境がさらに厳しさを増していることが明らかになりました。加えて、労働環境の改善も一部で見られたものの、依然として多くの課題が残されています。調査の回答率は75%を超えており、テレビ番組製作会社の現状を示す重要なデータとなりました。
本結果が業界の発展に資することができれば幸いです。今後とも、皆様の変わらぬご支援とご指導を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
2025年3月
テレビ番組製作会社経営情報調査研究会
座長 伊藤 慎一
- 実施時期 9月20日~10月9日
- 対象年度 2023年度
- 調査対象 ATP正会員社(アンケート実施時の会員社数120社)
- 回答社数 93社(回答率77.5%)
経営情報アンケートから見える製作会社のリアルな姿
監修 上智大学教授 音 好宏
「失われた30年」と称されるバブル経済崩壊の日本経済の低迷が続くなかで、放送局の番組制作費の圧縮が続いている。ATP加盟の製作会社の多くは、その営業利益のなかで放送局との取り引きが占める割合が高い。放送局の番組制作費の圧縮は、製作会社の経営に直接影響することになる。この放送局の番組制作費の圧縮が続くと、取引先である番組製作会社の経営にボディブローのように効いてくる。
今回の「2024年度経営情報アンケート」でも、放送局の経営環境の悪化に伴うコストカット、制作費の圧縮の影響、働き方改革による人件費の高騰を受け、製作会社の半数が売り上げを下げ、製作会社の経営環境が厳しさを増していることが読み取れる。
周知の通り、ATP加盟の製作会社においては、社によって資本関係や主たる業種・業態に違いが少なくないため一概には言えないが、事業規模の大きい会社と小さい会社とでは、よりサイズの小さい製作会社の方が経営環境は厳しく、事業規模による格差が拡大傾向にあることが推察される。
特に近年、製作会社にとって大きな課題となっているのが、恒常的な人材不足の問題である。特に新人の確保に苦労していることが見て取れる。今回のアンケート結果で注目すべきは、製作会社に対して「新卒の応募が減少」するとともに、「正社員率が下がり、契約スタッフが増加傾向」にあることだ。
アンケート結果からわかる通り、現在、制作現場では、AD不足が慢性化している状況にある。調査からは、マスコミ業界が超人気業種であった時代はすでに終わり、労働力確保に苦労している様子が確認された。日本の製作会社は、中小規模の会社が多いこともあって、賃金体系がわかりにくく、勢い、中途採用にあたっては、その技能よりも、前職の給与を基準に調整されているというのが実態である。また、就職後にどのようなキャリアを辿るのか。雇用後に、どのようなスキルアップができるのか。外部から、そのロールモデルが見えにくく、また、人材育成の場が十分に提供できているとは言えない状況がある。このような制作環境を改善するとともに、そのロールモデルを「見える化」する必要があろう。
もちろんそのような努力は、個々の製作会社が単体で行うのみならず、業界をあげた取り組み、場合によっては、政策的な支援や環境整備をも視野に入れた対応が図られるべきではないか。
特に社会の人権意識やコンプライアンスに対する認識が高まるなかで、入社後の人材育成の仕組みを、業界をあげて検討する必要があろう。増加傾向にある契約社員・派遣社員を含め、人材育成・スキルアップをどのように行っていくかは、製作会社を取り巻く喫緊の課題として、業界横断的な検討・対処、場合によっては、政策的な環境整備の支援が求められるのではなかろうか。
アンケート調査では、2024年度の製作会社の著作権保有率は、全体で1割程度。最も高い「配信」においても25.8%と、製作会社が制作に関わる映像コンテンツにおいて、その権利を得られておらず、製作会社の著作権確保比率の低さが浮き彫りになった。
総務省では、放送コンテンツの適正な製作取引を推進するため、「放送コンテンツの適正な製作取引の推進に関する検証・検討会議」(座長:舟田正之 立教大学名誉教授)を定期的に開催。同検証・検討会議において「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン」を、継続的に見直し、改定を行ってきた。
同検証・検討会議においてATPは、継続的に「発意と責任」に基づいた製作会社の知的財産権の確保を主張してきたのは周知の通りである。
製作会社を初めとする放送コンテンツの作り手が、発意と責任に見合った権利を獲得できる環境を整備していくよう政策的な指導も含め、働きかけを継続していくことが求められよう。
また、今回のアンケート調査で、制作費決定に関する放送局との協議状況を尋ねているが、その回答からは、交渉現場の空気感が読み取れる。制作費の決定過程における局との協議状況を尋ねているが、「協議があった」との回答は7割弱で、「協議の場はなく、局側から一方的に提示された」との回答が2割5分。その協議過程においても、制作費の決定が「内容にかかわらず制作費が決定した」との回答が約6割であった。
また、近年の物価高騰を受け、価格転嫁が問題にされているが、この価格転嫁について局との交渉について調査したところ、「交渉の場があった」が65.1%、「交渉の場がなかった」が21.5%、「交渉を申し入れたが場は設けられなかった」が3.5%と、協議の場を設けることが、いまだに十分に浸透しているとは言いがたい状況にあることが浮き彫りになっている。
総務省の「放送コンテンツの適正な製作取引の推進に関する検証・検討会議」においては、放送コンテンツの製作取引における放送局と製作会社との協議の重要性が繰り返し確認されてきた。適正な制作費の決定にあたっては、健全な交渉の場の確保が重要であることは言うまでもない。
これまで見てきたように、今回の経営情報アンケートの結果から、現在、製作会社が置かれた状況、直面する課題の一端が浮き彫りになったことは確かである。このようなアンケートを重ねることが、実態の把握と課題解決のための今後の対応策を見つける手がかりとなることは間違いない。
経営情報アンケートを一つの手がかりとして、ATPにおいて、日本の映像コンテンツ市場における製作会社の立ち位置と今後のありようを積極的に検討し、その将来像を発信していくことを期待する。
2024年度会員社アンケート調査
各調査から「取り巻く環境がより厳しくなっている」ことが明白に
ATP経営情報アンケートについて
ATP経営情報アンケートは、厳しさを増す製作会社の経営実態を明らかにするため、2012年度より実施しております。
これまではATP独自で調査・報告を行ってまいりましたが、今年度は統計的な分析を加え、調査結果の信頼性を一層高めるために、外部の有識者と研究会を発足し、調査を実施いたしました。
調査結果によると、売上高は前年と比較して横ばいであったものの、営業利益および経常利益は全体平均で10%以上減少しました。また、外部スタッフの活用や固定費の削減が進んでいる一方で、制作費の適正な価格転嫁が反映されていないケースも多く見られ、製作会社を取り巻く環境がさらに厳しさを増していることが明らかになりました。加えて、労働環境の改善も一部で見られたものの、依然として多くの課題が残されています。調査の回答率は75%を超えており、テレビ番組製作会社の現状を示す重要なデータとなりました。
本結果が業界の発展に資することができれば幸いです。今後とも、皆様の変わらぬご支援とご指導を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
2025年3月
テレビ番組製作会社経営情報調査研究会
座長 伊藤 慎一
- 実施時期 9月20日~10月9日
- 対象年度 2023年度
- 調査対象 ATP正会員社(アンケート実施時の会員社数120社)
- 回答社数 93社(回答率77.5%)
経営情報アンケートから見える製作会社のリアルな姿
監修 上智大学教授 音 好宏
「失われた30年」と称されるバブル経済崩壊の日本経済の低迷が続くなかで、放送局の番組制作費の圧縮が続いている。ATP加盟の製作会社の多くは、その営業利益のなかで放送局との取り引きが占める割合が高い。放送局の番組制作費の圧縮は、製作会社の経営に直接影響することになる。この放送局の番組制作費の圧縮が続くと、取引先である番組製作会社の経営にボディブローのように効いてくる。
今回の「2024年度経営情報アンケート」でも、放送局の経営環境の悪化に伴うコストカット、制作費の圧縮の影響、働き方改革による人件費の高騰を受け、製作会社の半数が売り上げを下げ、製作会社の経営環境が厳しさを増していることが読み取れる。
周知の通り、ATP加盟の製作会社においては、社によって資本関係や主たる業種・業態に違いが少なくないため一概には言えないが、事業規模の大きい会社と小さい会社とでは、よりサイズの小さい製作会社の方が経営環境は厳しく、事業規模による格差が拡大傾向にあることが推察される。
特に近年、製作会社にとって大きな課題となっているのが、恒常的な人材不足の問題である。特に新人の確保に苦労していることが見て取れる。今回のアンケート結果で注目すべきは、製作会社に対して「新卒の応募が減少」するとともに、「正社員率が下がり、契約スタッフが増加傾向」にあることだ。
アンケート結果からわかる通り、現在、制作現場では、AD不足が慢性化している状況にある。調査からは、マスコミ業界が超人気業種であった時代はすでに終わり、労働力確保に苦労している様子が確認された。日本の製作会社は、中小規模の会社が多いこともあって、賃金体系がわかりにくく、勢い、中途採用にあたっては、その技能よりも、前職の給与を基準に調整されているというのが実態である。また、就職後にどのようなキャリアを辿るのか。雇用後に、どのようなスキルアップができるのか。外部から、そのロールモデルが見えにくく、また、人材育成の場が十分に提供できているとは言えない状況がある。このような制作環境を改善するとともに、そのロールモデルを「見える化」する必要があろう。
もちろんそのような努力は、個々の製作会社が単体で行うのみならず、業界をあげた取り組み、場合によっては、政策的な支援や環境整備をも視野に入れた対応が図られるべきではないか。
特に社会の人権意識やコンプライアンスに対する認識が高まるなかで、入社後の人材育成の仕組みを、業界をあげて検討する必要があろう。増加傾向にある契約社員・派遣社員を含め、人材育成・スキルアップをどのように行っていくかは、製作会社を取り巻く喫緊の課題として、業界横断的な検討・対処、場合によっては、政策的な環境整備の支援が求められるのではなかろうか。
アンケート調査では、2024年度の製作会社の著作権保有率は、全体で1割程度。最も高い「配信」においても25.8%と、製作会社が制作に関わる映像コンテンツにおいて、その権利を得られておらず、製作会社の著作権確保比率の低さが浮き彫りになった。
総務省では、放送コンテンツの適正な製作取引を推進するため、「放送コンテンツの適正な製作取引の推進に関する検証・検討会議」(座長:舟田正之 立教大学名誉教授)を定期的に開催。同検証・検討会議において「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン」を、継続的に見直し、改定を行ってきた。
同検証・検討会議においてATPは、継続的に「発意と責任」に基づいた製作会社の知的財産権の確保を主張してきたのは周知の通りである。
製作会社を初めとする放送コンテンツの作り手が、発意と責任に見合った権利を獲得できる環境を整備していくよう政策的な指導も含め、働きかけを継続していくことが求められよう。
また、今回のアンケート調査で、制作費決定に関する放送局との協議状況を尋ねているが、その回答からは、交渉現場の空気感が読み取れる。制作費の決定過程における局との協議状況を尋ねているが、「協議があった」との回答は7割弱で、「協議の場はなく、局側から一方的に提示された」との回答が2割5分。その協議過程においても、制作費の決定が「内容にかかわらず制作費が決定した」との回答が約6割であった。
また、近年の物価高騰を受け、価格転嫁が問題にされているが、この価格転嫁について局との交渉について調査したところ、「交渉の場があった」が65.1%、「交渉の場がなかった」が21.5%、「交渉を申し入れたが場は設けられなかった」が3.5%と、協議の場を設けることが、いまだに十分に浸透しているとは言いがたい状況にあることが浮き彫りになっている。
総務省の「放送コンテンツの適正な製作取引の推進に関する検証・検討会議」においては、放送コンテンツの製作取引における放送局と製作会社との協議の重要性が繰り返し確認されてきた。適正な制作費の決定にあたっては、健全な交渉の場の確保が重要であることは言うまでもない。
これまで見てきたように、今回の経営情報アンケートの結果から、現在、製作会社が置かれた状況、直面する課題の一端が浮き彫りになったことは確かである。このようなアンケートを重ねることが、実態の把握と課題解決のための今後の対応策を見つける手がかりとなることは間違いない。
経営情報アンケートを一つの手がかりとして、ATPにおいて、日本の映像コンテンツ市場における製作会社の立ち位置と今後のありようを積極的に検討し、その将来像を発信していくことを期待する。
- 1.経済的苦境に立つテレビ製作会社
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半数が前年比の売り上げを下回り、3割が単年度の赤字に
- 2.人材確保に苦しむテレビ製作会社
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新卒の応募が減少、正社員率は下がり、外部スタッフは増加の傾向
- 3.テレビ製作各社の著作権割合は依然として低迷
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コンテンツの知的財産権確保率が伸び悩み、付帯作業は増加に
- 4.テレビ製作各社にも物価高が大きく影響
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充分な価格転嫁ができたと感じる社はわずか6パーセント